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TOKYO MUSIC SHOW〜歌謡ヒットパレード〜ライヴレポート 

2019.12.14 - 12:21

開演前の渋谷のライブハウス“duo MUSIC EXCHANGE”には、クリアなサウンドで歌謡曲が流れている。ステージ下手にターンテーブルをセットしたDJ MACKA-CHINは、用意したアナログ盤から厳選したナンバーを次々とプレイ。奥村チヨの「恋の奴隷」(69年)やジュディ・オングの「エーゲ海のテーマ~魅せられて」(79年)など、昭和の名曲が雰囲気を盛り上げる。今日のイベントのタイトル“東京レコードPresents「TOKYO MUSIC SHOW〜歌謡ヒットパレード〜」”にピッタリのセレクトがさすがだ。

DJタイムの最後の曲が流れる中、ドラム、ベース、ギター、キーボード、パーカッション、3人のブラスセクションの計8人のバンドメンバーがステージに現われて位置に着く。サウンドに彩りを与えるブラスは歌謡曲には不可欠で、必要最小限かつ充分なバンド編成だ。すかさず主人公、LITTLE BLACK DRESSが黒のパンツスーツで登場。

©︎ Santin Aki

ジャケットのラメが美しく光っている。これが今日の彼女の戦闘服という訳だ。その端正なたたずまいから、彼女の決意が静かに伝わってくる。LITTLE BLACK DRESSは、自分の信じる音楽=歌謡曲の魅力を“ショー”という形でできるだけ多くの人に楽しんでもらうつもりだ。彼女がアコースティックギターを肩から掛けるのを合図に、ドラムがハイハットでカウントを刻み、1曲目「野良ニンゲン」が始まった。

©︎ Santin Aki

まずはオリジナル曲からのスタートだ。「野良ニンゲン」が歌謡ロックだとすると、2曲目「双六」は中島みゆきを彷彿とさせるニューミュージック歌謡だ。今年5月にデジタルリリースされたこのデビューシングルは、LITTLE BLACK DRESSのテーマである“幸せに隠れている哀・闇”の片鱗をのぞかせてくれる。

 

「ようこそ! 今宵は精一杯盛り上がって行きましょう」とひと言挨拶して、いよいよ歌謡曲の世界へ。往年の音楽番組「ザ・ヒットパレード」(59~70年 フジテレビ)へのオマージュのメドレーが始まる。最初は番組のテーマ曲「ヒットパレードのテーマ」だ。ザ・ピーナッツなどが司会を務めた伝説の生番組で、LITTLE BLACK DRESSはタンバリンを振りながら昭和のど真ん中へとタイムトリップしていく。思惑どおり、ブラスがグルーヴにパンチを加える。ふと客席を見ると、かつてこの番組を制作していた渡辺プロダクションの現会長の姿があった。楽しそうなその表情は、LITTLE BLACK DRESSの果敢なチャレンジに対しての“お墨付き”のように見えた。

©︎ Santin Aki

「勝手にしやがれ」(沢田研二 77年)、「プレイバックPart2」(山口百恵 78年)、「飾りじゃないのよ涙は」(中森明菜 84年)、「暑中お見舞い申し上げます」(キャンディーズ 77年)、「渚のシンドバッド」(ピンク・レディー 77年)と、70年代後半~80年代の歌謡曲の金字塔が怒濤のように並ぶ。オーディエンスは曲を追うごとに一緒に歌い始め、このイベントの趣旨が一瞬にして会場に伝わったのだった。

©︎ 廣田比呂子

何が始まるのだろうと、少し緊張していた会場の雰囲気が和んだところで、LITTLE BLACK DRESSが話し出す。

「改めまして、ようこそ。今日のライブはSHOWROOMで生配信されています。今夜は歌謡曲の歴史を作ってくださっているゲストの方々をお呼びしました。最初のゲストは、ミッツ・マングローブさん!」と紹介すると、大きな拍手が起こる。ミッツは21才になったばかりのLITTLE BLACK DRESS に敬意を表して、20才の時にロンドンで買った衣装で登場。しばし歌謡談義で盛り上がる。

©︎ Santin Aki

「リクエストされたので、明菜ちゃんの歌を歌います。作詞は来生えつこさん、作曲は来生たかおさんの姉弟です」と歌謡マニアらしいコメントをして「セカンドラブ」(82年)をチョイス。途中で2人がハモるシーンもあった。

©︎ Santin Aki

続いてのゲストは、マルシア。客席の中から現われて、ハンドマイクでデビューヒット「ふりむけばヨコハマ」(89年)を歌う。ラテン・ミュージックを取り入れたサウンドは、ブラジル出身のマルシアによく似合っていると同時に、さまざまなジャンルを取り込んできた歌謡曲の懐の深さを見事に表わしていた。それはこのショーを主催するLITTLE BLACK DRESSの狙いであるのかもしれない。

©︎ Santin Aki

「なぜ、歌謡曲をイベントのテーマに選んだの?」とマルシアが訊くと、LITTLE BLACK DRESSが「歌謡曲が大好きだから、その魅力を世界に発信したくて」と答え、間髪入れずにマルシアが「ブラボー!」と叫ぶ。会場からは賛同の声が大きく上がった。

©︎ Santin Aki

「日本人の繊細な感情が、歌謡曲の魅力。海外の方からすると、遠回しの表現に見えるかもしれないけど、それが日本の文化だと思います。歌謡曲が全盛の頃、私は生まれてなかったけど、その魅力を語り継ぐことはできる。次は尊敬するちあきなおみさんの歌です」と言って「喝采」(72年)。その歌いぶりはちあきに似ていて、彼女がどれほど尊敬しているのか、わかるほどだった。

©︎ Santin Aki

ここからは2曲、「名もなき花」「だるま落とし」と、LITTLE BLACK DRESSのオリジナルが続く。だいぶ緊張がほぐれたのか、彼女の声の伸びがいい。特に「だるま落とし」は歌のリズムの切れが良く、彼女の目指す21世紀の歌謡ロックの姿が垣間見えて素晴らしかった。

 

「次はこの曲です」とLITTLE BLACK DRESSが言って、タンバリンを手にスタンドマイクで歌い出したのは、松本伊代のデビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」(81年)だった。

©︎ 廣田比呂子

それまでの硬派なLITTLE BLACK DRESSから一転、女の子らしいポップな歌声に会場がひときわ華やぐ。と、2コーラス目で松本伊代本人が客席を縫って歌いながら現われた。松本とLITTLE BLACK DRESSは2週間前にあるパーティで初めて出会い、今ここで一緒に歌っている。「このイベントに呼んでもらって、ありがとう!」と松本が去っていく。

「さあ、ここからもっと盛り上がりますよ~!」とLITTLE BLACK DRESSが会場を煽る。ドラムとベースがビートを刻み始めると、オーディエンスから歓声が上がる。♪リンリンリリン リンリンリリン♪とハンドマイクで歌いながら入って来たのは、フィンガー5の晃。

©︎ Santin Aki

曲はもちろん「恋のダイヤル6700」(73年)だ。歌う2人も、会場も、そしてバンドメンバーも、全員が笑顔になる。洋楽のR&B/ポップを取り入れたダンサブルなアレンジは、今のJ-POP/J-ROCKのプロトタイプのひとつと言っていい。続くナンバーは「学園天国」(74年)で、今から45年も前に作られたとは思えない、ヴィヴィッドなグルーヴに会場は一体になったのだった。

©︎ Santin Aki

そしてついに最後のゲストの番が来た。この夜のスペシャルゲストは、なんとザ・ドリフターズの仲本工事。

©︎ Santin Aki

最年長にもかかわらず、放つハッピーオーラが凄まじい。仲本を囲んで、この日出演したゲストの晃やマルシアたちもステージに登場して、「ドリフのズンドコ節」で会場は大合唱の渦。LITTLE BLACK DRESSの歌のコブシが、かなりよく回っているのが面白い。ちなみにこの日、ゲストの歌の歌詞がステージ背後のスクリーンに映し出されていたのだが、仲本の歌っている歌詞がかなり違っていることが判明して、客席に笑いが起こる。だが、そんなことはお構いなしに盛り上げる仲本は、さすがだった。

©︎ Santin Aki

「ドリフの早口言葉」は全員、口が回らずにボロボロ(笑)。しかし、盛り上がる、盛り上がる。ラストの「いい湯だな」の前に、仲本が「ここまで来たら、みんな、最後まで手伝って」と会場に呼びかけると、「おー!」と元気な声が上がった。

♪ババンババンバンバン アビバノンノン♪という囃し言葉の間に「またやるから来てよ~」という仲本の合いの手が入る。これは歌謡曲を愛するLITTLE BLACK DRESSの純粋な心意気への、仲本の本心からのエールだと感じた。それほどこの日のLITTLE BLACK DRESSの思いは、真剣だった。

©︎ Santin Aki

LITTLE BLACK DRESSが「みなさん、お越しいただいてありがとうございました!」と熱くお礼を述べると、DJが再びターンテーブルを回す。曲は尾崎紀世彦の「また逢う日まで」(71年)だった。

帰りがけ、duo MUSIC EXCHANGE の出口で、SHOWROOMの前田裕二さんとばったり会った。「今日のライブを5000人以上の方々が見てくれました。ここにきた何倍かの人に見てもらえて、よかった」と嬉しそうに話してくれた。

©︎ Santin Aki

 

次の「TOKYO MUSIC SHOW〜歌謡ヒットパレード〜」の開催はまだ未定だが、記念すべき第1回目は世代を超えた共感を呼んで、大成功のうちに幕を閉じたのだった。

 

 

PHOTO:廣田比呂子, SANTIN AKI
REPORT: 平山雄一


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